今さら聞けない「発酵バター」のこと。普通のバターとの違いは?
発酵バターは、乳酸菌で発酵されたバターのことで、コクと風味を楽しめます。食パンに塗ったりイタリア料理に使ったりするバターは、とても身近なものと言えるでしょう。ヨーロッパでは発酵バターが古くから親しまれており、ごく一般的なものとなっています。
ここでは、発酵バターと非発酵バターの違いや魅力などについてご紹介します。
「発酵」バターとは?
発酵バターは、その名の通り、発酵させるためのひと手間が製造過程に加わっているのが特徴です。
発酵していないものも含め、バター製造の際にまず行うのは、生乳をかくはんし、脂肪分の高いクリームを取り出すことです(2019年のNHKの朝ドラ『なつぞら』では、手で回す小さなタルのようなものでこの工程を行っていました。覚えているかたもいらっしゃるかもしれませんね)。
このクリームを加熱殺菌し、冷却します。
そのあとが、発酵バターならではのひと手間。クリームに乳酸菌を加え、適切な温度を保ったまま、半日以上じっくり発酵させます。この工程が、後述する発酵バターの風味を生み出すことになります。
「エージング」「チャーニング」……と呼ばれるその後の工程は、通常のバターと同じです。これを経て、私たちがよく見るバターが完成します。
日本では発酵バターが人気になったのはそれほど昔ではありませんが、ヨーロッパでは古くから親しまれてきました。紀元前から発酵バターが用いられていたという文献もあるそうです。なぜ、発酵バターが広まったのか詳しくはわかりませんが、バターを作る技術が未熟であるために自然に発酵が進み、偶然発酵バターになったとも言われています。
発酵バターの良いところ
非発酵バターと発酵バターの違いは、味や風味、製法などです。発酵することで風味や味が変わるのですが、発酵バターは一般的にコクがあると言われています。発酵していないバターに飽きた方は、一度試してみてはいかがでしょうか。
値段は発酵バターの方が高い傾向にありますが、メーカーによって値段が大きく異なるため、明らかな差があるとは言えません。また、栄養について発酵と非発酵で大きな差はありませんが、発酵バターの良い点は乳酸菌が含まれているところです。
厚生労働省によると、乳酸菌には次のような働きがあるとされています。
(前略)乳酸菌は腸内で大腸菌など悪玉菌の繁殖を抑え、腸内菌のバランスをとる役割を果たしています。そして便通の改善だけではなく、コレステロールの低下や免疫力を高めがんを予防するなど、さまざまな働きがあると言われています。最近ではピロリ菌を排除するなど、特徴のある機能を持つ乳酸菌も研究されています。(後略)
また、バターそのものにビタミンB2やビタミンD、ビタミンE、βカロテンなどの栄養素が含まれています。このように、本来の栄養素にプラスして乳酸菌の働きも得られるのが、発酵バターの良いところです。
発酵バターが合う食材や料理
発酵バターに含まれていて、非発酵バターに含まれていないものは乳酸菌のみとなっています。そのため、乳酸菌を生かせるような食材と合わせた料理に使うのがおすすめです。
乳酸菌と一緒に取りたいのは食物繊維です。食物繊維には、悪玉菌を減らす働きがあると言われています。乳酸菌も善玉菌の繁殖を抑えて腸内のバランスを整えてくれるため、食物繊維を一緒に取ることで、より大きな働きが期待できるのです。
発酵バターは、非発酵バターと同じ扱いで料理に使えます。食物繊維が取れてバターを使う料理と言えば、オムレツです。
たまねぎやにんじん、ピーマンなどの野菜をみじん切りにして、発酵バターで炒めましょう。
カレーを作るときに発酵バターで野菜を炒めるのもよいかもしれません。カレーはたくさんの野菜を使うので、食物繊維をたっぷり取れます。
バターと相性が良い調味料は、めんつゆ、ケチャップ、ソース、コンソメ、カレー粉、醤油(しょうゆ)、味噌(みそ)などです。これらを使った料理に発酵バターを使いましょう。
乳製品と人との関わりの歴史
発酵させた乳製品は、バターの他にもヨーグルトやチーズなどがあります。これらの歴史はとても古く、紀元前6000〜3500年頃の遺跡から、人間が利用していた形跡が残っているとのことです(※1)。
※1 小泉武夫 編著『発酵食品学』(講談社サイエンティフィック) P.304
旧約聖書をはじめ、紀元前のギリシヤの歴史家・ヘロドトスなどの古代の書物にも、バターについての記述があるようで、人間との関わりの深さを感じますね。
日本で初めて記録に残る乳製品は、6世紀頃の「蘇(そ)」と呼ばれるものです。現在のチーズかバターのようなものだったと言われています。
実はこの「蘇」は、2020年にプチブームを迎えました。というのも、学校などがコロナ禍で休校になり、牛乳が大量に余ってしまうというニュースをご記憶のかたも多いでしょう。その対策として、農林水産省が牛乳消費レシピとしてSNSに投稿したのが、この「蘇」の作り方。これがクチコミで広がり、現代の家庭で「蘇」がたくさん作られることになったのです。
このように、現代の日本人と乳製品・バターは切っても切れない関係ですが、昔の日本に定着することはなかったようです。時代を経て、17世紀頃にヨーロッパとの関わりが深くなってから、再度歴史の舞台に登場し、今に続きます(※2)。
乳酸菌の効果は?
ここからは、少し詳しい、発酵バターの情報をお伝えしていきます。
発酵バターの特徴=乳酸菌。そして乳酸菌=ヒトの味方。……というのは、よく知られた事実です。厚生労働省のe-ヘルスネットから引用してみましょう。
乳酸菌(にゅうさんきん)
発酵によって糖から乳酸をつくる嫌気性の微生物の総称。腸内で悪玉菌の繁殖を抑え、腸内環境を整える。
人体に有益な菌のため「善玉菌」とも呼ばれます。
食品としては、ヨーグルト・チーズ・漬け物・日本酒など発酵食品の製造に使われています。(中略)
乳酸菌は腸内で大腸菌など悪玉菌の繁殖を抑え、腸内菌のバランスをとる役割を果たしています。そして便通の改善だけではなく、コレステロールの低下や免疫力を高めがんを予防するなど、さまざまな働きがあると言われています。最近ではピロリ菌を排除するなど、特徴のある機能を持つ乳酸菌も研究されています。
乳酸菌などの腸内環境を整える微生物のうち、生きて腸に到達できる有用な微生物を特にプロバイオティクスといいます。またオリゴ糖などその栄養源となりプロバイオティクスの増殖を助けるものをプレバイオティクスといいます。
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-026.html
難しい用語もありますが、つまり、古くから人に愛されてきただけではなく、今の科学の側面から見ても、その効用も期待できる、ということですね!
発酵バターのブランドは?
発酵バターというと、海外製の高価なものをイメージされるかたもいるかもしれません。しかし、今は各メーカーがさまざまなタイプの発酵バターを発売しており、手軽に買うことができます。
【よつ葉】
▼よつ葉パンにおいしい発酵バター
https://www.yotsuba-shop.com/SHOP/0210.html
「ミルクの優しい風味に加え、発酵バター特有のヨーグルトのようなすっきりとした爽やかな後味」が特長とのことです。
▼よつ葉発酵バター
https://www.yotsuba-shop.com/SHOP/0208_2.html
「バターチャーンでじっくり練りあげる伝統的な製法」がポイントです。
【カルピス】
飲み物でおなじみのカルピスですが、乳製品のプロでもあります。
▼カルピス(株)発酵バター
https://www.calpis.co.jp/lineup/business/product02/
「業務用」となっていますが、その人気から、今ではネット通販などでも気軽に買えるようになっています。
【高千穂牧場】
▼高千穂牧場発酵バター
https://takachihofarm-shop.com/view/item/000000000068
九州産にこだわったバターです。
【エシレ】
エシレバターは、乳製品の本場とも言えるフランスのメーカーです。牛が食べる草や、それを育む土壌、気候……などなどにこだわって、「AOP」=EUの「原産地名称保護」の認証を受けています。日本にも、10年ほど前に世界初の専門店ができ、流行に敏感な人たちの間で話題になりました。
https://www.kataoka.com/echire/
もちろんこのほかにも、さまざまなメーカーがさまざまな発酵バターを発売しています。編集部員が今回改めていくつかの製品を試してみたところ、確かに、風味の違いがありました。数多くのバターの中から、お好みの風味を見つけるのも発酵食品の楽しみのひとつですね。
まとめ
発酵バターは、非発酵バターとは違い乳酸菌が含まれており、腸内環境を整える働きが期待できます。その他にも、さまざまな面で身体に良いと言われているので、発酵バターを使うようにしてはいかがでしょうか。
また、乳酸菌の働きを生かすために、食物繊維を取れる食材と一緒に使うことをおすすめします。発酵バターを食生活に取り入れて、健やかな身体を目指しましょう。
- 参考文献
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- e-ヘルスネット「乳酸菌」厚生労働省
- 小泉武夫 編著『発酵食品学』(講談社サイエンティフィック) P.304
- 農林水産省Facebook
- 一般社団法人 日本乳業協会