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インタビュー

発酵デザイナー 小倉ヒラクさんインタビュー 発酵デザイナーの小倉ヒラクさんが語る、素晴らしき菌の世界

2018.12.18

これまで一般には難しく捉えられていた発酵について、理解しやすくポップに、そしてディープに面白くひもといた本『発酵文化人類学』をご存知でしょうか。今回は著者の小倉ヒラクさんに、改めて発酵の魅力や素晴らしさについて語っていただきました。人類と発酵の歴史から関係性まで、知れば知るほど奥が深いことにびっくり! そんな素晴らしき菌の世界へいざなってくれました。

小倉ヒラク(発酵デザイナー)

デザイナーとして活躍したのち、東京農業大学で研究生として発酵学を学ぶ。現在は山梨県甲州市に暮らしながら発酵ラボを作り、微生物の世界を探求している。全国の醸造家と商品開発や絵本・アニメの制作、ワークショップを多数開催。YBSラジオ「発酵兄弟のCOZYTALK」パーソナリティーも務める。

発酵デザイナー・小倉ヒラクさんとは?

2017年に出版された『発酵文化人類学 微生物から見た社会のカタチ』が大ヒットを記録し、一般にも名が知れわたるようになった小倉ヒラクさんは、発酵デザイナーという肩書の持ち主。まずは「発酵デザイナーとは?」という点から、活動内容について教えていただきました。

「僕はもともと普通のデザイナーだったんですが、働きすぎて体調を崩してしまったときに発酵食品に出合ったんです。それで劇的に回復したことから微生物の世界にハマって、気がついたら発酵関係のデザインの仕事ばかりやるようになっていました。当時取材に来てくれた毎日新聞の記者さんから、『ヒラクさんは発酵をデザインしている、発酵デザイナーですね』って言われて。すごく気に入ったので、この肩書を使わせてもらうようになりました」

“発酵をデザインする”。少々イメージが湧かない部分があるので、もう少し具体的に解説していただきました。

「すでに商品があるところからブランディングをしていくのが一般的なデザイナーですが、発酵関係のデザインをしていて、かつ東京農業大学の研究生になって微生物学を学び直した僕の場合は『一緒につくりませんか』というパターンが多かったんです。『特許を取った技術があるんだけど、商品化するにはどうしたらいいか』とか、『こういう微生物がいるんだけど、発酵技術を使って何か面白いもの作れないか』とか、『発酵に興味がある人に使ってもらえる家電を作りたい』とか。それだけでは終わらなくて、地方自治体が『市長がこれからは発酵だって言って、発酵まちづくり条例ができたんだけど、何をするか一緒に考えて』とか。イベント、プロダクト、サービスを作ったり、発酵を使ってなにかしらの社会的な価値を見いだすことをやるようになりました。発酵デザイナーを名乗り始めて1、2年でそういうことが増えてきて、雑誌で連載を持ち、本になって、本と一緒に日本全国を回って、土地の人たちと発酵文化と微生物のポテンシャルを解き明かして調査して、何かの企画になって……という感じですね。つまり研究者とコミュニケーター、クリエーターのちょうど中間、橋渡しみたいなことをやっているのが活動内容です。今は東京から、より微生物の研究がしやすい山梨に居を移して生活しています」

多様な発酵文化が根付く日本は、面白く、素晴らしい!

最近特に頻繁に耳にするようになった“発酵”というキーワードですが、そもそもどのくらい前から人々が発酵と関わってきたのかご存知でしょうか。著書の中で「古事記の時代から米を発酵させて酒を造っていた」と解説されているように、実は驚くほど長い歴史があります。小倉さんが発酵の歴史で特に面白いと感じる点について聞いてみました。

「発酵の歴史は、文字の歴史より古いのではないかと想像しています。例えば、ぶどうが“シュワシュワ”(発酵)していたとします。お猿さんはそれを食べて酔っぱらうかもしれないけど、自分でそれを再現しようとはならない。自然現象として起こりうることを人間だけがパターン化して、再現できる環境を作って、それをレシピ化して、自分じゃなくても作れるようにできる、つまり発酵の伝達は知性の現れなんです。著書の第一章でも『発酵するゆえに我あり』って書いているのはそういうことです。
発酵食品がいつできたのか正確な書類は残ってないし、誰もわからない。無名の人たちが受け継いできて、自然発生的に作られる。そんな現代の文化のフレームワークではないものが、今の日本でものすごく大きな産業を作っているんですよ。発酵食品だけでも数兆円規模だって知っていますか? こんなにも自分たちの生活に影響を与えていることに対して、すごく不思議で面白いなあと思っています」

これまで、日本全国をはじめ世界までさまざまな場所へ足を運び、いろいろな発酵を見てきた小倉さん。中でもインパクトが強かったのは、新島の「くさや」だったそうです。

「くさやは本当に衝撃的でしたね。人間にとって味覚とは何か、という問題を突きつけられるんです。マジでスゴい臭いがする食べ物なんですが、新島に行くと、子どもも猫もくさやが大好きなんです。くさやの匂いでみんな集まってくるんですよ!
くさやの歴史を100年以上も守っているメーカーの旦那さん曰く、くさやは200年以上の長い年月をかけてじわじわ臭くなっていったから、きっと新島の人はみんな慣れたんじゃないかって。人間の感覚って面白くて、一方では物理的に絶対ダメなはずなのに、うまいということにしとけばうまいんじゃない? みたいな、せめぎ合いが出てくるんです。その、わかりやすい例がくさやですね。
人間がうまいと思う公式を外しまくっているのに、なぜかうまいと思ってしまう。単純な独りよがりでもないし、すべての人がそう思うものでもない。みんなが思ううまさと個人的なうまさがぶつかり合ったときにできるもの、それが発酵食品の好みだったり、人間の感性だったりするんですよね。そして、なぜ自分がおいしいと思うか考えたときに、文化人類学が必要になってくるんです。そこには個人的に積み上げてきた経験があるわけだから。それが両方重なっているのが発酵の面白さだと思います」

空前の発酵ムーブメント、今後はどうなる?

さて、今日本をはじめ世界で起こっている発酵ムーブメントについて、その渦中にいる小倉さんはどのように考えているのでしょうか。

「本当に面白くなるのはこれからだと思います。自然への向き合い方や、自分がより気持ちよく生きていくにはどうするべきかを考えていく時代になるのかな、と。発酵はその1つの指針になるのではないかと思います。 『スローフード』というムーブメントがあります。イタリアでこのムーブメントが起こったときのポイントって『ゆっくり食べよう』というシンプルな呼びかけだったんです。ゆっくり食べるためには、ゆっくり食べる生活にしなきゃいけない。生活を変えようってことですよね。具体的な実践とともに暮らしや社会を変える呼びかけをする。日本におけるそれは発酵であってもいいと思うんです。
もう少し自分の住んでいる土地を見つめたり、食卓を見つめたりしてみる。発酵って正解がないし、仕込むとなると、ある程度待たなきゃいけないので、そういうことを根気よくできる価値観をどうやって人生の中に取り入れるのか、考えるきっかけになりますよね。発酵に対する入り口は『おいしい』『面白い』かもしれないけど、自分がどうやって世界を見ていこうかっていう問いかけがいっぱいあるのを強く感じています」

「食べるのもいいんですが、自分で発酵食品を仕込むと、子供を育てるみたいにそわそわして面白いですよ」と小倉さん。現代において正解のないもの(=発酵)を楽しむのは本当に意義のあることだと、力強く語ってくれたのが印象的でした。

※記載内容は、取材対象者及び筆者の個人的な見解であり、特定の商品または発酵食品についての効果効用を保証するものではありません。

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