“発酵王子“ 伏木暢顕(ふしきのぶあき)
1975年東京生まれ。醸造料理人であり、日本の発酵食文化伝承人。発酵教室の講師としても活躍し、現在の「発酵食」、「麹」人気の立役者の一人。イタリアン、和食など料理の道を極めること20余年、食材を全く別のものにかえてしまう、不思議な麹の力に惚れ込み、独学で麹について学ぶ。メディア出演も豊富で、「発酵王子」として親しまれている。
長期発酵熟成が生み出す 豊かな香りと深いうま味
長期発酵熟成というとき、その期間は2~3年が最低ライン。色の濃い豆味噌や赤味噌、たまり醤油などはもちろん、みりんも3年5年と寝かすことで醤油のように黒くなります。長期発酵熟成することによって、素材の分子が細かくなり、豊かな香りと何とも言えない旨味を持ったやわらかな味に仕上がります。これは、微生物と時間でしか解決できないこと。どんなにショートカットしようとしても、長時間発酵熟成させたものの風合いは、絶対に生まれないものです。
時間をかけることで 抗酸化作用の強い成分も生まれる
長期発酵熟成させると、次第に色が黒くなっていきます。これは、アミノ酸と糖が熱や時間の経過によって化学反応し、メラノイジン(褐色物質)が生み出されるからです。この現象をメイラード反応と呼んでいます。メラノイジンは抗酸化作用が非常に強く、近年注目を集めている物質でもあります。
味噌を例にあげると、白味噌は、大豆を長時間水に浸して、さらにしっかりと煮ることで、水溶性のタンパク質(タンパク質はアミノ酸が連結したもの)が逃げていき、メイラード反応があまり起こらず、色が濃くなりません。一方、色の濃い味噌は、大豆を水につける時間を短くして、しかも蒸して熱を加えることでタンパク質が逃げるのを防ぎます。その結果、メイラード反応が起こり色が濃くなるのです。
色が濃いものは アミノ酸も豊富?!
アミノ酸の量が多ければ多いほど、メイラード反応によって色が濃くなります。逆に言えば、色が濃いものは、アミノ酸の量が豊富なのだということがわかります。
アミノ酸には、自分の体内で作り出せるものと、体内では作れず外部から取り入れる必要のある必須アミノ酸の2種類があります。必須アミノ酸は9種類全部そろっている方が効果的と言われており、長期発酵熟成させた色の濃いものにはほぼ全て含まれています。必須アミノ酸全種類同時に摂るというはなかなか難しいことですので、色の黒い発酵調味料などをうまく活用していきたいですね。
※記載内容は、取材対象者及び筆者の個人的な見解であり、特定の商品または発酵食品についての効果効用を保証するものではありません。