チーズやヨーグルト、チョコレートにバニラ……。スイーツの世界では、さまざまな発酵食品がときには主役として、ときには名脇役として活用されています。でも、ほとんどのパティシエは、それらが発酵食品であることをあまり意識しないで使っているそう。 かつてはそんなパティシエのひとりだった「T. sweets. Labo」の柘植孝之さんが発酵食品の魅力に目覚めたきっかけとは?
柘植孝之(「T.sweets.Labo」オーナーパティシエ)
ホテルニューオータニに勤務後、約5年間にわたり、ベルギー、カナダ、オーストラリアなどのホテルやレストランでセクションチーフを務める。帰国後、外食企業のレストランでデセールを作る傍ら、新店の立ち上げやメニュー開発のサポートを行う。2010年に東京都大田区に「T. sweets. Labo」を設立。米粉や麹(こうじ)を使ったスイーツを販売しながら、スイーツのOEM生産や商品開発を手がける。
https://www.t-sweetslabo.jp/
発酵が生み出す“お米の甘さ”に衝撃!
2010年に自身のブランド「T. sweets. Labo」を立ち上げた柘植孝之さん。設立当初から小麦粉を使わず、米粉を使ったスイーツで勝負すると決めていたそうです。
柘植さん「僕はお米が大好きなんです。自然栽培のお米から作った米粉には、お米ならではのふっくらとした風味や、麦とはひと味違うほのかな甘みがあってとてもおいしいんですよ。その味わいを引き立てるにはどうしたらいいだろうと模索していたときに出会ったのが甘酒でした」
子供の頃、酒粕をお湯で溶いて砂糖を加えた甘酒を飲み、そのクセのある味わいのせいで甘酒が苦手だったという柘植さんでしたが、米麹で作られた甘酒を飲んで衝撃を受けました。
柘植さん「甘味がものすごく強いのにまろやかで、しかも後味がすっきりしている。砂糖が入っていないのにどうしてこんなに甘いんだろうとびっくりしました。
後で知ったのですが、米麹がお米のデンプンを分解することで、ガツンとした甘さのもとであるブドウ糖を作り出しているんですね。しかも、甘酒には発酵の力で生まれたビタミンやうま味成分のアミノ酸もたくさん含まれています。甘酒も米粉もお米どうしだから相性は抜群。これを使えば、僕にしか作れないスイーツができると直感しました」
発酵食品は難しいけれど、面白い
甘酒は「T. sweets. Labo」のスイーツのほぼ全てに使われています。例えば、代表作のひとつ「とろとろプリン」でも、甘味づけの主役は甘酒。
人気アイテムのチーズケーキ「極醸フロマージュ」には、チーズ、甘酒のほかにヨーグルトや塩麹も使用。和と洋の発酵食品が出会い、深い味わいを醸し出すことから“極醸(ごくじょう)”と名付けました。
柘植さん「砂糖を使えば、スイーツはいつも一定の味に仕上がります。その点、甘酒は発酵という自然の力で作られるものだから、甘さや水分量がどうしても微妙に変わる。パティシエとしては扱いにくい部分もあるのですが、僕にとってはそれが面白いんです 僕は規格通りに作られた素材よりも自然の中で育まれたお米や果物が好きだし、微生物の力で作られる発酵食品に魅力を感じます。そういう素材をどう組み合わせたら、どんな化学変化が起きるんだろうと考えるのがすごく楽しいんですよね」
まかないにも和の発酵調味料が大活躍
柘植さんが「ラボ」と呼ぶ工房では、2〜3人のスタッフがスイーツ作りをサポートしています。そのまかない作りはいつの間にか、オーナーパティシエである柘植さんの仕事に。
柘植さん「洋食や中華をよく作りますが、調味料のほとんどは和の発酵食品。味噌やしょうゆ、みりんや塩麹は毎日のように使います。例えばチャーハンに塩麹を入れるとごはんがパラっとするし、うま味が増して格段においしくなります。トマトソースでは、みじん切りの玉ねぎを炒めるときに日本酒をたっぷりかけて、玉ねぎにしみ込ませます。そうすると焦げにくいし、うま味がぐっと増すんです。手間ひまかけずに料理をおいしくしたいなら、まずそろえるべきは発酵調味料かもしれません(笑)」
※記載内容は、取材対象者及び筆者の個人的な見解であり、特定の商品または発酵食品についての効果効用を保証するものではありません。