『発酵かあさん』著者 加藤マユミさんインタビュー
楽しくおいしく健康に!『発酵かあさん』の著者が語る、手作り発酵食品の魅力
加藤マユミ(『発酵かあさん』著者)
味噌(みそ)や醤油(しょうゆ)、納豆を始め、日本人となじみの深い食品が多い「発酵食品」。身近な存在で、日頃から食べている人も多いと思いますが、実は多くの発酵食品が手作りできるということをご存知でしょうか?
そんな発酵食品作りに夢中になり、本まで出版してしまったのが、漫画家の加藤マユミさん。発酵食品を手作りする楽しさや、始めたことで起きた変化など、発酵食ライフについてお話を伺いました。
加藤さんの著書『発酵かあさん』
ちょっぴりズボラなかあさんが、愛する家族の健康のために発酵食品作りに奮闘するコミックエッセイ。読んですぐ実践できる、発酵食品のお手軽レシピも満載です。
「食べ物エッセイを描きたい!」発酵食品作りのきっかけ
2014年から発酵食品作りを始めたという、加藤さん。そのきっかけとは一体何だったのでしょうか?
「元々、食べることが大好きで食べ物エッセイを描きたいという目標がありまして、どんなことを書こうか探していたんです。でも、世の中にはすでにたくさんの食べ物エッセイがあって、どうしようかと考えた時に、食べることプラス“手作り”をしている人はまだ少ないなと気付いたのが最初です。そこから、せっかくなら自分も家族も健康になれるものが良い!と思って発酵食品にたどり着きました。」
意外にも、仕事がきっかけだったという加藤さん。しかし初めて作った豆乳ヨーグルトのあまりのおいしさに感動し、手作り発酵食品の魅力にハマっていったのだそう。今では、豆乳ヨーグルトは加藤家の定番メニューになっており、肉や魚を漬け込んだりカレーに入れてマイルドな味にしたりとさまざまな料理に使っているそうです。
記念すべき初めての手作り発酵食品は、豆乳ヨーグルトだったという、加藤さん。「発酵食品といえばヨーグルト!でも牛乳が苦手なのでヨーグルトが食べられないことを思い出して……。『牛乳の代わりに豆乳でヨーグルトを作れないかな?』と思ったのがきっかけで作りました。」
その他にも定番化したというのが、味噌や塩麹(こうじ)。
「作るのも簡単で、市販のものよりも味わい深いところが気に入っています。味噌は1年に1度冬に仕込み、半年から1年寝かせて作るんですが、家族も大好きなんです。あまりのおいしさに1年持たずになくなってしまうほど(笑)。」
夫は今でもトラウマに!? 最初は失敗も多かった発酵食品作り
順風満帆な発酵ライフを送っているかのように見える加藤さん。しかし、最初から上手くいっていたわけではないと言います。
「最初は失敗もたくさんしました。初めて作った豆乳ヨーグルトも、本ではすぐに上手くいったように見えると思うのですが、実は失敗もしたんですよ。過発酵といって、発酵しすぎてぶくぶく泡立ってあふれたこともありました。」
本にも登場する、ぬか床やパン作りはとくに大変だったと話す、加藤さん。
「ぬか床は失敗すると、とにかく臭い!夫は今でもその時の臭いがトラウマになっているほどです(笑)。ぬか床は、作るのはそんなに難しくないんですけど、安定するのに時間がかかるんですね。本のなかでは結局成功せずに終わっていますが、その後半年後くらいにふと冷蔵庫に放置していた“床ちゃん”を開けてみたら、なんと全然臭くなくて、突然大丈夫になっていました(笑)。理由は分からずじまいですが、今はそのぬか床で漬けた野菜たちもよく食べています。手作りの発酵食品は同じものはひとつもないし、できあがるまで何があるか分かりません。でもこういった菌たちの気まぐれな部分も含めて発酵食品作りの魅力だと思っています。」
一方、パン作りは、失敗するとおいしくないものを食べるのが辛いそう。
「酸っぱくて硬いパンが何度もできあがり、子どもたちからも不評でした……。発酵パン作りは何種類かあり、ドライイーストを使ったものは2度目で上手にできたのですが、天然酵母のパンは環境や使う素材によって正解がないためとても難しいんです。」
しかし、発酵つながりの友人からの情報を元に何度もチャレンジし、今では子どもたちが毎回楽しみにするほどおいしいパンを作れるように!
「今でも、成功するかどうか毎回ドキドキしますが、その分おいしくできたときの感動はひとしおです。」
心身ともに良い変化が!発酵食品作りが教えてくれたこと
数々の失敗を乗り越え、今や加藤さんの生活の一部となった発酵食品作り。発酵食品を作るようになってから、加藤さん自身も家族にも良い変化があったと言います。一体、どんな変化があったのでしょうか?
「私は腸が弱くてすぐにお腹が痛くなっていたのですが、発酵食品を毎日食べるようになってからお腹の調子が良くなりました。家族は発酵食品作りに興味をもって、よく手伝ってくれるのですが、作る楽しさや食のありがたみをしっかり感じてくれているみたいです。」
さらに、精神面の変化もあったと加藤さんは続けます。
「自分で発酵食品を作ると、市販品のように賞味期限が決まっていません。だから目で見て鼻で嗅いで舌で味わって……と五感が研ぎ澄まされるようになりました。そして発酵食品作りに欠かせない“菌”の存在へのイメージも変わりました。最近は過剰に除菌を気にする風潮がありますが、私たちに必要な菌もたくさんいて、目に見えないけど助けてくれているんです。そういうことを知ったことによって、細かいことはあまり気にせず、おおらかな性格になったと思います(笑)。」
発酵食品作りには、それぞれの家にいる「常在菌」の存在が欠かせないそうで、その証拠に、「引っ越しをしたら、しばらくは上手く発酵が進まなかった」と話す加藤さん。この「常在菌」の種類や量の違いが、“我が家の味”の決め手になるのだそう!
だからやめられない!発酵食品作りの魅力とは?
おいしくて、心身ともに良い影響を与えてくれるという発酵食品。加藤さんが感じる、「あえて手作りしたくなる魅力」はどんなところなのでしょうか?
「手作りは、自分で選んだ材料を使っているという安心感があります。そして作る過程が純粋に楽しいです!それから、これは意外だったんですけど、コミュニケーションの輪が広がりました。たとえば去年の冬に味噌作りをした時に、友達の家族や近所の方を呼んで作ったんです。子どもたちもすごく楽しんでいたし、普段こういう体験はなかなかできないからと親御さんにも喜ばれました。今年の冬に開封したらまた集まってみんなで食べたいと思っています。」
自分たちで手作りしたものって、とってもおいしく感じますよね。それをさらにみんなで一緒に食べるとより一層おいしく感じられるし、自然と絆も深まりそうです!
加藤さんの手作り発酵食品の一部。写真左から、醤油麹、塩麹、豆乳ヨーグルト、ピクルス。どれもまろやかで優しい香りがして、とってもおいしそうでした!とくに塩麹は、加藤さんいわく「発酵食品作りデビューにおすすめ」とのこと。材料は塩・麹・水のみ。炊飯器ひとつで手軽に作れる上、さまざまな料理に使えるそうです。
「未来に残したい」発酵食品のおいしさと手作りの素晴らしさ
発酵食品作りにハマり、ついに「発酵食品スペシャリスト」の資格まで取得してしまった加藤さん。最後に、今後の目標について教えていただきました。
「発酵食品作りの楽しさやおいしさ、菌のありがたみなどを未来の子ども達に伝えていけたら良いなと思っています。思い返すと、小さい頃、母がたまに味噌を作ってくれていたんです。大人になった今でもその光景や味を覚えているので、自分の子どもたちが大人になった時もきっと覚えていてくれるんじゃないかなと思っているんです。そんなふうに、上の世代が残してくれた伝統を子どもたちが引き継げるように、ひとりでも多くの人が発酵食品や発酵食品作りに興味を持ってくれるお手伝いができたらと思っています。」
おいしく食べて健康にもなれる発酵食品。そこに手作りという愛のスパイスがひとさじ加わると、加藤さんのようにもっと楽しい発酵ライフが送れるはず。加藤さんの著書ではどなたでも参考にできるよう 、実践したレシピも紹介しています。みなさんもワンランク上の発酵ライフを始めてみてはいかがでしょうか?
加藤マユミ
漫画家。発酵食品スペシャリスト資格保有。夫も同じく漫画家の横山了一。8歳と5歳の兄弟の母。著作に「発酵かあさん」(リイド社)、「おじさんと女子高生」(KADOKAWA)などがある。
※記載内容は、取材対象者及び筆者の個人的な見解であり、特定の商品または発酵食品についての効果効用を保証するものではありません。