微生物目線で見てみると?
食品についた微生物が栄養分を分解することで、新しい栄養素やうま味成分が生み出されたり増えたりしたものが発酵食品。
私たちは発酵の目的をおいしい発酵食品を生み出すことのように考えていますが、一方、微生物目線で見てみると、微生物にとって必要なエネルギーを生み出すことがメインであり、発酵食品はその副産物でしかありません。
例えば、牛乳に付着した微生物(乳酸菌)は、牛乳に含まれるブドウ糖を分解して繁殖していきます。微生物自身が生きていくために必要なエネルギーを生み出す過程で、副産物として乳酸がつくられます。この乳酸が牛乳に含まれるタンパク質を固めたものがヨーグルトなのです。
発酵食品=微生物が生み出す「良い」副産物
もしこの乳酸による固まりが美味しくなかったり腸内環境改善を助けてくれなかったり、それどころか食べるとお腹を壊してしまうものだったとしたら、わたしたちはヨーグルトを発酵食品とは認めていないでしょう。
チーズ、味噌やしょうゆ、甘酒、納豆、キムチやぬか漬け、酒や酢も。微生物の活動=発酵によって、原材料にはなかった爽やかな酸味やコク、甘さや香りなどが生み出され、美味しくて健康に役に立つというメリットがあるために広く愛されています。
つまりわたしたち人間にとって「良い」と評価された副産物に、発酵食品という称号が与えられているというわけです。
カビや菌は必ずしも悪者ではない
私たちは普段の暮らしで、押し入れにカビが生えないように部屋の空気を入れ替えたり、菌が繁殖しないようにまな板を除菌したりしています。まるでカビや菌を悪者のように思いがちですが、発酵に関わる微生物の中にはカビや細菌も含まれています。
発酵に関わる代表的な微生物は大きく分類すると3種類。
- カビ(麹菌、アオカビなど)
- 細菌(乳酸菌、納豆菌、酢酸菌など)
- 酵母菌(パン酵母、清酒酵母、ビール酵母など)
温暖湿潤な気候の日本はカビが繁殖しやすい環境ですが、それは逆に言うと、麹菌のような安全で有用なカビの繁殖(=発酵)が進みやすい環境ともいえるのです。だから日本では味噌やしょうゆや日本酒など、麹菌が活躍する発酵食品が多く生み出されてきました。
人間の主観で「発酵」にも「腐敗」にもなる
では、わたしたちにとって有用ではない微生物が繁殖したらどうなるでしょう?
悪臭がしたり、食べると変な味がしたり、お腹を壊したり、食中毒を起こしたりします。それをわたしたちは「腐る」「腐敗」と言って嫌がります。
しかし発酵も腐敗も、「微生物が活動して食品を変化させる」というメカニズムは同じ。その結果が人間にとって好ましく有用なものを「発酵」、不快で有害となるものを「腐敗」と呼んでいるだけのちがいなのです!
発酵: 微生物の活動によって、食品が人間にとって有用なものに変わる場合
腐敗: 微生物の活動によって、食品が人間にとって有害なものに変わる場合
微生物が働くメカニズムは同じで、「発酵」か「腐敗」かをジャッジしているのは、あくまで人間の主観です。
長い年月の中でわたしたちが好ましいと思った「発酵」を発見し、その様子を観察・研究し、優秀な微生物を選別・培養して、さらに有用性を高めていく。
そんな人間の飽くなき向上心が、発酵食品の文化を育んできたといえるのです。
※記載内容は、取材対象者及び筆者の個人的な見解であり、特定の商品または発酵食品についての効果効用を保証するものではありません。